賃貸の新法則が明らかに
「どれを見ても、築20年のこの社宅とは比べ物にならないわね」
「当たり前だよ。でも、マンションだってエアコンや洗濯機のカタログと同じで、きれいなイメージ写真やうたい文句だけを真に受けちゃいけないんだよ」「そうよね。でも、問取り図や説明の文章を読んでも、ふ〜ん、なるほどねって、納得しちゃうのよね。裏を読みとるだけの知識がないってことなのかな」「こんなにたくさんのなかから気に入った物件を選び出すなんて、仕事しながらできないよ。Y子さん、昼間見ておいてよ」「ちょっと待ってよ。私だって昼間、Y太の相手したり、家のことしたりで、時間を持て余してるわけじゃないのよ。育児情報誌を読むひまだってないし、読んでいればY太が絵本持ってきて読んでくれって言ったり、いたずら書きしたり。大変そうだからって、最初から全部私にやらせるつもり?」
「いや、いや、そういうつもりじゃないよ。ごめん。ちょっと弱気になっただけだよ。ああ、そうだ、Y子さん、卜部先輩、覚えてる?」
「あ、あの背が高くて口ひげの似合う?おもしろい人よね。一見ちょっと硬派なハンサムなのに、話し出すとすっごくひょうきんで……」「そうそう、卜部先輩に相談しよう。あの人、一級建栄士で設計事務所にいるんだから、きっと力になってくれるよ。明日、電話してみるよ」目を奪う広告にそわそわ とりあえず、夫婦げんかは回避。
T史さんは交通の便やケーブルテレビのインターネット接続サービス、Y子さんは食器洗浄乾燥機や浴室乾燥機、子どもの遊び場、などに注目して雑誌を見ていましたが、20件近く見ているうちにどれも同じように感じてきてしまいました。
翌朝は、近郊のマンションの折り込み広告がたくさん入る金曜日。
T史さんはY子さんに「できればチェックしておいて」と卜部先輩への電話を約束して出勤しました。
Y子さんは広告の山が気になって、朝からそわそわ。
洗濯物を干すあいだにも、ちょっとでも広告を見ていると、すかさずY太君が飛んできます。
お昼前にT史さんから、卜部先輩が気軽に相談に乗ってくれることになり、早速明日、来てくれることになったと連絡が入りました。
ホッと一安心しながらも、掃除にお菓子の用意もしておかなくてはなりません。
Y太君がお昼寝をしているあいだが、やっとティーブレイクです。
「75u超が2980万円から」「頭金O円」「駅前に堂々完成」「30階の眺望」……などなど、華やかなキャッチコピーが大判の広告に踊っています。
さらに見ていくと、情報誌に出ていたのと同様に、ホテルかと思うような立派なロビーがあり、笑顔の子どもたちが遊ぶキッススペースのイラスト、生活感のないきれいなリビングやキッチンと、いくら「真に受けないように」と思っていても、立派な広告にはため息が出るほどです。
どこのマンションも、洗浄機付き暖房便座は当たり前、多機能な設備が目白押しです。
また、スラブ駅や二重床など、専門的でよく分からない用語もたくさんあります。
そこで、分かりそうな設備・機能のうちで、必要と思うもの、なくてもかまわないと思うものをチェックするという見分け方はどうだろうと思いつきました。
頭金は購入物件の2割は必要、と情報誌に書いてあったのに「頭金O円」というのも気になります。
それにしても、高層マンションは最上階にパーティスペースがあり、ゲストルームやジャグジーなど、いまの社宅生活とはまるで別世界のようです。
車の心配がないマンションの敷地内でY太君を遊ばせられて、育児仲問もできれば、と夢は広がっていきます。
今晩も、Y太君が寝てからT史さんとマンション購入ミーティングです。
Y子さんが昼間、広告を見て考えたチェック方法を提案し、T史さんは会社で仕入れたインターネットの情報収集方法を報告です。
「そうか、情報収集なら、インターネットが便利よね。うっかりしていたわ」「うん、ホームページを持っている会社はもちろん、売り出し中の物件専用のホームページをつくっているところもあるらしいよ。それに、いくつかのメールマガジンに登録しておけば、オンラインDMといって、メールでDMが届くよ。気に入った物件の広告を取っておいて、Y太に破かれたら困るけど、メールのDMなら破かれることがないし、必要ないものでもゴミが出るわけじゃない。おまけに自分の都合のいい時間に見られる、つてわけさ。なにより、せっかく買ったノートパソコンを活躍させられるしね」というわけで、さっそく会社で聞いてきた大手住宅専門誌のホームページをのぞいてみると、予算の立て方から情報収集、引っ越しのことまで、細かな情報が出ています。
このホームページをじっくり読めば、たいていのことは分かるようになりそうです。
じっくり読むのは後にして、続けてふたつのメールマガジンに登録。
関心のある項目から、「住宅」を選んで自分のメールアドレスなど必要事項を記入しておけば、自分のメールアドレスに、関連のある情報だけが送られてくるサービスです。
Y子さんはお蔵入りしかけていたパソコンが活躍するようになって、満足顔です。
「家にいなからにして、最新の情報を見られるわけね。私も手が空いているときに、いろいろ調べてみようっと。やってみれば、インターネットはおもしろそうだし、それに、いずれ職場復帰するときに、後れをとらないようにしておかなきゃいけないしね。」情報の読み方について語る。
「小さな子どもがいると出かけるのは大変だから」と、M宅を訪れてくれた卜部氏。
早速、広告の読み方と「これから」についてのレクチャーです。
まず、この分厚い電話帳のような情報誌をすみずみまで読む必要はないよ。
だって、きみたち、北関東まで引っ越そうとは思ってないわけだろ?新築マンションと決めているんだから、立地条件(エリア)と価格、次に広さと間取り、これでずいぶん、ふるいにかけられるはずだよ。
ところで、どんな規模のマンションにするか、つていうことは決まっているのかな?一口にマンションといっても、総戸数が50戸未満のものから200戸を超えるような大規模なものまで、さまざまだ。
小規模なら建物の圧迫感はないけれど、ファミリー向けで共用施設の充実を重視するなら、中から大規模のほうがいいだろう。
でも、高いところが苦手なら、高層マンションでも上階はダメだね。
最近は低層マンションでもエレベーター付きが多い。
ベビーカーの利用や買い物の便、体調の悪いこともあるから、エレベーターは必要だね。
大規模マンションなら敷地内に緑地帯があって子どもをちょっと遊ばせられるような遊具が置いてあったりする。
中規模でもキッススペースといって、子どもの室内遊戯場があるマンションがふえている。
マンションの敷地内にそうした屋内外の子ども向け施設が必要か、それとも近隣に大きな公園があればそういう付帯施設のないマンションでよいか、あるいは車を所有しているかどうかで、駐車場や洗車スペースなど、自分たちの希望とマンションの提供する設備のバランスも見てみよう。
Y子さんが気づいたように、必要な設備を見きわめることも大切だ。
いまは、売るためにいろんな設備で競争しているような面もある。
設備はあれば便利だけど、ランニングコストがかかる。
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